朝海陽子

tangible

2015 6.20 - 2015 7.19

無人島プロダクションでは朝海陽子個展「tangible」を開催いたします。

「見る/見られる」という関係性や、被写体の背後にある物語を想像させるような人や物の痕跡を、写真という 表現で浮かび上がらせる朝海陽子。無人島プロダクションにおいて3 年ぶりとなる本展では、個人的な視点によっ て撮影されたスナップ写真の解釈の変化と、写真の記録媒体自体の時間について考察した新作を発表します。

新作は、朝海が亡き祖父の撮りためたスライドを受け継いだことからはじまりました。未編集のまま残されて いたスライドを見たとき朝海は、家族アルバムにはない、風景のスナップ写真がたくさん撮影されていたこと を知りました。それらのイメージは、移動中にふと目にした「束の間」の通り過ぎていく風景で、モノローグ のような、もっと感覚的な視点で撮影されており、旅先で撮る記念写真とは質的にかなり大きく違っていました。 約60 年の時を経て初めて祖父の眼差しと出会った朝海は「写真を《撮る》」という写真家としての立場ではなく、 「写真を《観る》」という鑑賞者の視点によって新作の制作を試みました。

故人が記録した思い出を共有できる人がいなくなったとき、 イメージは撮影者本人の記憶や意図から解き放たれます。 しかし、匿名で無縁の人の記録であるファウンド・フォト ではなく、祖父という近親者の撮影した写真は、既知と未 知の領域を主観と客観を往還しながら編集され、そうして できた写真は複雑な遠近感を鑑賞者に与えることでしょう。

今回は、作品の導入でもありあとがきともとらえられる、 撮影時と編集時の写真を並べた「clock」、同じ一本のフィ ルムに連続で撮影された2つのイメージを、それぞれ別の メディアで蘇えらせた「always/once」、現在生産・販売が 終了しているスライドプロジェクター(ツインキャビン スーパー)を使用し、鑑賞者が実際に動かして体験する仕組みになっている「overwrite」、スライドショーを プロジェクターで上映する「a secret of secret」の4シリーズで構成されています。

「always/once」では、レタッチで撮影の色をよみがえらせた道の写真とその1コマ前に撮影された出来事を、 経年劣化した現在の状態のポジフィルムのままで展示しています。本来、続いていた時間は切り離され、まる で異なる時代に撮影されたかのような感覚をもたらします。また「overwrite」では、今度は祖父のスライドと 朝海が撮影した写真を組み合わせ、それらをポジに複写することで異なる背景のイメージを同じ時間軸に定着 します。記憶が上書きされてゆくように、鑑賞者がポジを動かすことで、60 年という時間を隔てたイメージ同 士はつながり、あらたな物語が生まれます。

写真は過去の単なる記録であるというよりは、むしろ現在の時間に存在しています。本展は、タイトル 「tangible」(触れて感知できる、実体のある)という言葉のとおり、写真に実際に触れることで「かつてそこにあっ た時間」を体験し、どこか別のところにある実体がない「記憶」を呼び覚ます引き金として捉えるための試み でもあります。

昔をたどることで今という時代と現存するメディアの中で生きていることを考える、そして未来を想像する。 現在、誰もが携帯やデジカメで気軽に写真を撮影し、記憶や記録を自由にネット上にアップできる時代だから こそ、写真を見ること、そしてイメージを残す/イメージが残ることについて、本展でともに考えるきっかけ となれば幸いです。

朝海陽子は、1974 年東京生まれ。ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン卒業(1998 年、アメリカ)。 主な展覧会に、2014 ~ 2015 年「Translation Theme Park」(Uppsala konstmuseum / Gallery Ping-Pong、 Gallery 21、スウェーデン)、2014 年「We can make another future: Japanese art after 1989」(クイーンズ ランド州立美術館、オーストラリア)、「第6 回恵比寿映像祭:トゥルーカラーズ」(東京都写真美術館、東京)、 2013 年「六本木クロッシング2013 展:アウト・オブ・ダウト-来たるべき風景のために」(森美術館、東京)など。