加藤翼

Still the Never-World

2013 10.26 - 2013 11.24

無人島プロダクションでは加藤 翼展「Still the Never-World」を開催いたします。

加藤はこれまで、店舗や灯台、自分や友人たちが住んでいた空間を木造で再現し、その構造物をさまざまな人々と引っぱり起こす「引き興し」と名称づけたプロジェクトを多数行ってきました。「引き興し」プロジェクトは構造物をゆっくりと引き上げるため、多くの人の力を必要とします。日常生活では出会うことのなかった人と人は構造物を媒介に集合し、動かなかった構造物が動く瞬間を共にします。その共有の時間を「引き興し」や「展覧会」で提示することで、観客をつぎつぎと参加者へ変換させることが加藤の作品のテーマになっています。

本展では、2012年の暮れから数ヶ月間にわたってアメリカ中のさまざまな都市(ハリケーン「カトリーナ」で被害を受けたニューオリンズや経済破綻したデトロイトなど)を訪れ制作した写真作品と、今夏ノースダコタ州のネイティブアメリカン保留地で行ったプロジェクトを発表します。
加藤は昨年末のアメリカ滞在時に、自由と資本主義によって構築されたアメリカのグローバリズムがさまざまなローカリズムを飲み込んでいくさまを目の当たりにしました。そして、これまで行ってきた「引き興し」プロジェクトを”Pull and Raise Project”としてアメリカで行うことを決意し、今年はじめに訪れた場所のひとつであるノースダコタ州のネイティブアメリカン保留地へ再び赴きました。彼らが利用する移動用住居のひとつである「ティピ」と19世紀後半から20世紀にかけて、ネイティブアメリカンに対する同化教育政策として存在していた「ボーディングスクール」を現地の人々と作り、それを引き興すまでをひとつのドキュメントとして発表します。

加藤の一連のプロジェクトは、構造物を引っぱり起こすという特定の手段に個々の場所性を取り込んで展開していくものです。引き起こすというパフォーマンスも、そこで協働する人々と過ごす時間も一時のものであったり、ときには一過性のものでもありますが、その瞬間とできあがった映像や写真といったドキュメント作品には普遍性があります。また「引き起こす」という行為は、私たちが普段絶対意識せずともこの地球上にいきているすべての生き物にも建物にも平等に存在する「重力」というものにあらがう行為であり、「重力」をかぎりなく意識し想像させるものでもあると考えます。加藤は、すでに世界中に存在するありとあらゆる問題を「重力」にいったんあらがい引き起こすことで、その問題を具現化し意識させることを試みています。それをいったんこの世界から引きはがし、新しい(構造体の)面を再度地面に着地させることで、新しい未来を作ろうとしているかのようです。

とはいえ、この一連の「引き興し」プロジェクトには、一言では言えない、もしくは言葉に置き換えられないカタルシスがあり、そのカタルシスこそが加藤の作品の本質ともいえます。実際に引き興しに参加した人、そして作品化されたものを観た人々の中に共感がめばえることこそが、加藤の作品世界であり、言葉に置き換えられないものだからこそ、表現というものの奥深さとその強度を私たちは加藤の作品によって再認識し、アートの力を再確認することができるのだと考えます。

是非加藤のプロジェクトを実際にご覧いただければと思います。