ツァウバーベルク (2021)
木版画(パネル、和紙、油性インク)、版木
183 x 364 cm

Photo: Kenji Takahashi
Courtesy of Tokyo Arts and Space


「ツァウバーベルク」について

「ツァウバーベルク」とは、トマス・マンの長編小説『魔の山』の原題です。
サナトリウムで療養生活をしている主人公の青年ハンスは、多種多様な患者たちと出会い、思考する習慣を身につけつつあった。そんなある日、気まぐれに決行した山スキーでホワイトアウトに見舞われてしまう。そこで見た幻覚により、人間界における二元的な対立は「愛」によって融合できる、という啓示を得たのだった…。

私はこの場面から、日常的な二元性「昼と夜」「生と死」が一つの画面に共存する風景を想像しました。

作品の下部は和紙に刷られた木版画で、「夜と死」を暗示しています。上部は刷り終えた版木を彫り進めて「昼と生」の世界に転じてます。版と版画の境界は接続され、下部の湖の水面は、鏡のように山脈を映してます。

対極とも思われる陰と陽は、版画における版と作品のように共存し、また生と死のように表裏一体であること…そんな一体感を魔術のように(トリックを使い)表現しました。