加藤翼

リーチアウト

2015 2.14 - 2015 2.28

無人島プロダクションでは加藤翼個展「リーチアウト|Reach Out」を開催いたします。

 本展は、加藤が過去に行った「引き興し(ひきおこし)」プロジェクトの未発表作と、昨年末から今年初めにかけてオーストラリアやマレーシアに滞在しながら地元の人々とともに制作した最新作を展示し、加藤の現在までの活動を総括的にご覧いただきたいと企画しました。

 加藤の「引き興し」プロジェクト(後述)の根底にあるのは、ともに引き興す他者の時間、引き興す場所の歴史、そして自分と構造物という媒介が関わったことによるさまざまな人との時間と感情の交差です。
 近年は「引き興し」プロジェクトのほかにも、「そこにいる」人々=他人とのコミュニケーション、そして別々の場所で別々の時間を生きてきた者同士の時間の交わりをより前面に出したプロジェクトも展開しています。

 なお、加藤は今年3月より文化庁新進芸術家海外研修制度の助成を受け、2年間アメリカ・シアトルで滞在制作をすることが決定しています。彼がこれから出会い、創り出すであろう「人間関係」と「作品」、そしてその人間関係が作品を生み、作品が人間関係を生んでいく、この先の展開へ思いをはせながら本展をご覧いただければ幸いです。

 また、無人島プロダクションでは、3月15日から香港で開催されるアートフェア「アートバーゼル香港 (https://www.artbasel.com/en/Hong-Kong)」にも、加藤翼のソロブースで参加いたしますので、香港へいらっしゃる際には是非弊社ブース(1D48)にもお立ち寄りください。映像作品のスペシャルエディションボックスなど、個展とは違う作品でお楽しみいただけることでしょう。

【加藤翼のこれまでの活動の流れ】

 加藤翼は、大学在学中から、木材で巨大な構造物を作り、それを大勢の人とともにロープで引っ張り、倒したり立ち上げたりするという行為を、写真や映像作品にして発表しています。それらのプロジェクトは、当初、構造物を倒す「引き倒し」と名付けられていましたが、その後、立ち上げることを主眼とした場合を「引き興し」と名付け、それらの意図の違いを明確にするようになります。

 初期の「引き倒し」プロジェクトは、友人や家族に関わる建造物などからモチーフを採用し、参加者も身近な人たちでした。しかし、回数を重ねるごとに規模も関係性も大きく広がっていきました。

 転機となったのは2011年に大阪で行ったプロジェクト「H.H.H.A. (Home, Hotels, Hideyoshi, Away)」*1です。身近な関係性(ホーム)から離れ、見知らぬ土地(アウェー)で行うにあたって、加藤は、構造体のモチーフに現地スタッフの住居を選びました。加藤にとって、その土地やそこに関わる人々の実態にリアルに触れることなしに、本当の意味での「協働」にはなりえないと実感したプロジェクトだったのではないでしょうか。

 
*1
 そして、このプロジェクト実施予定日の前日に、東日本大震災が起こります。大阪での協働体験と震災の発生は、加藤に自身のプロジェクトの主旨や意義を再考、再確認させるきっかけとなり、以降、プロジェクトは主な名称を「引き倒し」から「引き興し」と改めることとなったのです。
 その後、福島県いわき市で被害を受けた建物の解体作業や炊き出しなどのボランティアをしながら、地域住民との対話のなかで立案された、地域の象徴的存在であった灯台を瓦礫を用いてかたどり、引き興すという「the Light Houses-11.3 Project」(2011)*2を行います。

 
*2
 見知らぬ土地で地元の人々と長い時間をかけて作り上げるプロジェクトで新たな視線を得た加藤は、その視線を国外に向け、2012年年末から数か月間アメリカに旅に出ます。そして、人々が去った場所などを見つけると、廃屋や捨て去られた車などを一人でロープで引っ張る写真シリーズ「Abandon」*3を制作しながら、アメリカ中を車で縦断・横断しました。

 
*3

 そしてその夏には、旅の中で出会ったネイティブアメリカンたちのもとを再度訪れ、彼らの生活文化の象徴である移動式住居「ティピ」を引き興し(「Tepee Rocket」、2013)、反対に負の記憶である同化教育政策が行われた施設「ボーディングスクール」を引き倒す(「Boarding school」、2013)というプロジェクトも成功させています。

 大勢で力を合わせ、困難を成し遂げたときに生まれる高揚感や達成感を得るだけでなく、その場に関わる人々の意志や目的、またその背景にある過去・現在・未来への願いにも似た思いをもって取り組むプロジェクトへと成長した「引き興し」は、社会の問題をも映し出すようになりました。

 近年は、引き興しプロジェクトと並行しながら、使用言語が違う二人が1対1でコミュニケーションをとりながら、交流の拠点である場所で自分たちの立ち位置を示すサインボードを打ち込む「They do not understand each other」(2014)*4や、さまざまな人が抱える共同体への意識を探る映像作品「“I”dentity」(2015)を発表するなど、新たなシリーズも展開しています。

 
*4

同時開催:
「Being Maphilindo」2015年2月7日-22日
会場:The Sabah Gallery、コタ・キナバル、マレーシア