松田修

パラダイスロスト・パラダイス

2014 3.8 - 2014 4.12

無人島プロダクションでは、松田修個展「パラダイスロスト・パラダイス」を開催いたします。

松田修は映像や立体、ドローイングなどさまざまなメディアを用いた表現で、社会に潜む問題や現象、風俗をモチーフにして「生」や「死」といった普遍的なテーマに取り組んできました。

ときには、ひきこもりやニートといった、世間から否定的な眼差しを向けられる存在や、ゲームの中での戦いや死など、繰り返し再生されるヴァーチャルな世界での生命観なども松田の作品の重要なテーマとなってきました。

2012年の個展「ニコイチ」では、2つのものを組み合わせて1つのものを創り出すという、本来は修理技法として用いられる手法からヒントを得て制作した作品を発表しました。壊れた車や剥製となった動物の脚、使用済みの食用油など、一度は「破壊」「消費」されたものたちを、まったく別のものとつなぎ合わせることで、松田は新たな「復活」という希望を提示してみせました。破壊と創造、生と死といった対極にある概念が表裏一体であることを明らかにしようと試みる松田は、ともすると「低俗」と見なされるもののなかに、驚くほどポジティブな「聖」を胚胎させているのです。

「ニコイチ」が「+(プラス)」ならば、本展は「-(マイナス)」、つまり「ロスト(喪失)」が展覧会全体を構成するキーワードとなります。
1979年に生まれた松田は、「ロストジェネレーション」と名付けられた世代です。 大人たちから受けてきた教育と目の前の現実との間に大きな乖離ができ、既存の価値観が通用しなくなっていく時代に、実際に自分たちが何をロストしたのかさえも定かでないまま、その状況に戸惑い、葛藤しながら生きてきた世代。信用すべき何ものかを見つけがたい状況への諦念を抱える一方で、自分自身で考えた価値観で生きることができる世代だとも言えるでしょう。松田はそこに、同世代に独特の成長と文化を見出し、作品の素材として拾い上げます。

「壁ドン」「床ドン」と呼ばれる、隣人に怒りを伝えたり、引きこもりの人が家族に食事を催促したりする手段として壁や床を叩くというネガティブなイメージをもつ行為を、無人楽器に仕立てた《無人壁ドン装置「むじどんくん」》(2014)、バイクの消音機を取り外し、エンジン音で音楽「禁じられた遊び」を奏でる映像作品《アローン・イン・ザ・ブルー3》(2013)などは、一見不健全と思えるものを、音楽という娯楽的要素を付加することで変容させた作品です。これらは、集団から離れ、一人遊びが上手になったおひとりさまが孤独を楽しむ方法としての提案であり、同時に観るものにも認識の転換をうながします。

また、一億円分の札束の帯を積み重ねた立体作品《無億円》(2014)は、単に松田が金欠であることを表すだけでなく、「死」がもたらす喪失感など、失うことでよりその存在への思いを強くするという人間の心理を、あえて「お金」をモチーフに選び、表現したものです。そこには、松田の自分自身、他者、そして社会に対するアイロニカルな視線が交錯しています。

本展のタイトル「パラダイスロスト・パラダイス」は、「楽園を神に追放されたアダムとイブ。けれど地上も楽園だった。僕はそう考えたい」という松田の思いがベースとなり、「失楽園」と「楽園」をひとつのものとして同等に並べています。ロスジェネと呼ばれた自分たちのその後も「楽園」であるはずだ、という思いも同様に込められたこのタイトルは、略称「パラパラ」。各所にちりばめられたコンセプトの重厚さとは裏腹な表面上の軽さ、俗っぽさは、多分に含ませたブラックなユーモアとともに、松田が全力で思い描いた脱力の未来を表現するうえで、なくてはならない仕掛けです。

ぜひ、松田が描く楽園の形をご覧いただき、ともすれば暗くふさぎこみ、後ろ向きになりがちなこの時代を、笑いとともに、捉えなおしてみてください。捉え方が変わることで、時代の相貌はきっと違って見えてくることでしょう。