八木良太

浦島太郎の宇宙旅行

2021 6.29 - 2021 8.1

open: 火~金|13:00-19:00 / 土・日|12:00-18:00
close: 月、祝
※ 本展ではオープニングレセプションは行いません。
※ 今後の状況により、営業時間の変更や、やむを得ず休廊となる場合があります。最新情報は随時ウェブサイトでご案内します。ご来場前に必ずご確認ください。

無人島プロダクションでは、八木良太展「浦島太郎の宇宙旅行」を開催いたします。
 
無人島プロダクションでの八木展は約3年ぶりとなります。
本展では、世界中が新型コロナウイルスに翻弄されている2020年から現在に至るまでの、時間に対する八木の考察から生まれた新作群を発表します。
 
コロナウイルスの感染拡大防止策や緊急事態宣言の発令によって外出や営業自粛などを余儀なくされたこの約1年の間、まるで時が止まってしまったかのように感じる人、時の流れがいつもより遅く感じる人もいれば、あっという間に時が過ぎ去り、2020年があたかも存在しなかったかのように感じる人など、人によって時間の存在が違ったのではないか、という着眼点から本展作品の制作は始まりました。
 
作家自身はこの1年を、今まで時間と競うかのようにスピードをもって物事を決断しなければいけなかった状態から、じっくり時間をかけて考えることが可能となったことで、時間の流れの変化をポジティブに捉えることができたといいます。
八木はデビュー当時から時間をテーマにした作品を継続して作り続けてきましたが、今回はコロナ禍のなか、時間知覚や時間評価の多様性だけではなく、時間はパラレルに多数存在するのでは、という発想から、「浦島太郎」を複数ある時間の概念のシンボルとして取り上げ、さまざまな角度から考察しています。
 
展示では、時間を体感できるものとして捉えた、サウンドを使用したインスタレーション「Time Signal」をはじめ、時計をモチーフとして視覚で時間を切り取る写真作品「Framed Time」や同じく時計をモチーフとしていながら個々が違う時間をパラレル的に持っているということを視覚化した「Everyone has different time」、また、過去を現在に呼び戻すような、まさに”浦島太郎”を再現したプログラミング作品「TODAY -10」、時の蓄積を視覚化した「Elephant」など、さまざまに異なった「時」へのアプローチを試みています。
バリエーションに富んだ八木良太の時間への考察を、ギャラリーという一つの空間に多面的なインスタレーションとして再現いたします。
ぜひ、会場でそれぞれの「時」を視覚で、聴覚で、体感していただければと思います。
 
無人島プロダクション
 
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特殊相対性理論における時間の遅れは、SF用語で「ウラシマ効果」と呼ばれる。
「ウラシマ効果」とは、お伽話の「浦島太郎」の話から来ている。浦島太郎の物語は明治~昭和には教訓を伴って現代版として改編されているが、元を辿ると興味深い地域伝承であった。
丹後国風土記によると、浦島太郎(筒川嶼子)は一人舟で釣りをしていると、5色の亀が釣れ、亀が美女に変身した。3年ほど蓬莱山(常世)でともに暮らした後、地上へ帰ってくると、300年の月日が経っていたという。蓬莱山で出迎えた童子は、あめふりぼし・すばるぼしと呼ばれており、おうし座のプレアデス星団とヒアデス星団と呼ばれる星たちである。地球からの星間距離はおよそ150光年であり、地球からの往復で300年の遅れが生じる計算であり、作中での時間経過と合致する。そういったことから、浦島太郎は海中ではなく宇宙へ旅をしていたという仮説を立てることも可能であるだろう。
今回の展示では、そんな浦島太郎の物語を背景に、我々の持っている時間(時間を所有可能にした時計)をモチーフにしながら、作品を制作した。
ミクロな視点では、ローレンツ変換* からの帰結として、時間の進み方は観測者によって異なり、一人の所有している時間はそれぞれ進み方が異なるという。また、マクロな視点では、遠い星の光が遅れて届くように、「いま」が存在しないようにも感じる。時間そのものについて考えれば考えるほどに、その存在を疑い始めてしまうことは、カルロ・ロヴェッリの「時間は存在しない」に詳しい。
そういった、いろいろな『時』のバリエーションを実制作を通じて表現することで、時間の変容について思いを巡らせている。
 
2021年 八木良太
 
 
* ローレンツ変換は、2つの慣性系の間の座標(時間座標と空間座標)を結びつける線形変換で、電磁気学と古典力学間の矛盾を回避するために、アイルランドのジョセフ・ラーモア(1897年)とオランダのヘンドリック・ローレンツ(1899年、1904年)により提案された。
アルベルト・アインシュタインが特殊相対性理論(1905年)を構築したときには、慣性系間に許される変換公式として、理論の基礎を形成した。(Wikipediaより引用)