風間サチコ

セメントセメタリー

2020 2.8 - 2020 3.8

無人島プロダクションでは2020年第1弾の展覧会として風間サチコ「セメントセメタリー」を開催します。
本展は、昨秋、黒部市美術館での個展「コンクリート組曲」で発表した「クロベゴルト」シリーズに最新作を加えた構成となります。

「クロベゴルト」シリーズは、コンクリートを利用し、土木技術の開発力をもって自然を人間のためにデザインしてきた、新たな秩序がテーマとなっています。風間は、その新秩序の象徴と日本の近代化の歴史の縮図を、人間が大自然の中に作り上げた「ダム」に見出し、神々になぞらえて人間のエゴや支配欲を描いたワーグナーの楽劇「ニーベルングの指輪」4部作の「序夜」にあたる「ラインの黄金(ラインゴルト)」を重ねてシリーズ作品としました。

本展は黒部市美術館での「コンクリート組曲」の流れを汲みつつ、コンクリートの原料の「セメント」と、セメントの材料である石灰岩(石)※ に焦点をあてています。
※ セメントは石灰石などを焼成・粉砕したもの。コンクリートはセメントに砂利や水などを加えて混ぜ、固めたもの。

堆積岩の一種である石灰岩は、もともとサンゴなどの生物の死骸が長い年月をかけ固まってできた岩石です。エジプトのピラミッドやギリシャ・ローマの神殿、日本の城の白壁など、古代から石灰石は文明の発展のために使用されてきました。人類の歴史は、イコール石灰石とのつきあいの歴史ともいえるでしょう。特に産業革命後に登場したセメントが、さまざまな技術の進化によって諸産業の発展に大きな役割を果たしてきたように、石灰石は人類の生活にますます欠かせない存在となりました。
一見すると無機質な原材料にすぎないこの岩石は、数千万年の時間の中で、有機物の誕生と死滅の繰り返しによって生成された鉱物であり、そこには地球の歴史が含まれています。人類が天然資源と呼んで重宝している石油や石灰石が生成された悠久のスパンを思えば、私たちがこれらを消費した時間は一回瞬きする程度、ほんの一瞬にすぎないでしょう。屍の堆積に畏敬を抱かずに浪費し食い尽くす恐怖を、効率と合理性で整備された近代的な風景が忘れさせます。山の形が変わるほど石灰岩を切り崩し、それと比例するように林立する高層ビル群は、人類の栄華の象徴にも見えますが、同時にセメントの墓標とも言えるのではないか。本展「セメントセメタリー」で風間が提示する新作は、この矛盾と課題を鋭く指摘しています。

現在の問題を糸口として過去に遡り、作品によって未来を暗示してきた風間のこれまでの作品のコンセプトが、今回、このセメントと石灰石を巡る長い歴史のストーリーと見事にシンクロしたことを展覧会から感じていただけることと思います。
最新作2点の一つ「セメントセメタリー」では、フロッタージュ技法で石灰鉱山が〈墓標〉と化してゆくプロセスを表現します。もう1点の「セメント・モリ」では、石灰を切り出す生産者側の掘削作業員が、一方では自然を切り崩す墓掘り人 (Undertaker) でもある皮肉を、木版画を使ったインスタレーションで表現します。従来の風間作品に見られる木版画から少し変化させた方法で、風間の表現の幅と展開を今回お見せいたします。
この現代社会で生きていくなかで誰もがどうしても無縁ではいられない問題において、自分も時代における共犯者であるということを自覚しつつ、どのように折り合いをつけていくのか──。この終わらない問いについてのひとつの提示を、風間の新作から感じ取っていただきたいと思います。

2020年の幕開け、無人島プロダクションが風間サチコ展でお届けする、来たるべき未来へ向けての「セメントの墓地」を是非ご覧ください。