黒い花電車-僕の代 (2008)
木版画 、電飾看板、アクリル 板 、ベッド、欄間、タイヤ、ほか
176 x 126 x 230 cm

社会的には落伍者と自覚しつつ、ネットの世界では気炎を吐き、あたかも勝者のように振る舞う そんな暗い矛盾を乗せて、マイワールド 自室 から発車された花電車 「 僕の代号 」は凱旋する。

立体作品「黒い花電車:僕の代」は、2008年に起きた秋葉原連続通り魔殺人事件( 25歳の青年による無差別殺人、7名死亡)に衝撃を受けて、事件の背景にある「負(ふ)の世界」を形に残そうとして、その年に制作したものです。犯人はいわゆるオタクで、社会との適応に悩み、唯一ネットに生きる場を求めていたと伝えられてます。
ネット上で生活する市民「ネット民」の独特な攻撃性、ルサンチマンのフィルターを通してみた外の世界への感情。敵視する「リア充」への憎悪や、仮想敵 (左翼など)への暴力的な言葉は、強気に勝ち誇りネット掲示板に溢 れています。
それは戦前戦中に勝利を記念して凱旋パレードした「花電車」や、太平洋戦争下の「大本営発表」の 勝利の誇大広告と重なって見えます。
黒い花電車の素材(ベット、電飾看板、タイヤなど)はすべてネットオークションで落札した「戦利品」です。一見霊柩車のように見える外観の車に、ファシズムを想起させるシンボルマークを先頭に、ネットスラング「涅土迂世(ネトウヨ)」、秋葉原の事件現場を独走する装甲車、要塞からモバイルで攻撃する男子達、ネットゲームで孤立 する勇者、パチンコ地獄などを描いた木版画を貼り付けた電飾看板を搭載し、「俺たちは負けてない」という孤独な勝利を凱旋しているのです。ネット民を自負して、罵詈雑言を吐くことを日常とする人々は愚かで醜いです。しかし一方で、彼らのコメントを読んで共感しそうな瞬間もあるのです。このような負の感情は、極端な「一人ファシズム」の滑稽さを晒しながらじわじわと共感の輪を広げ、他者に対する攻撃性は、知らない間に社会全般をファシズム的思考に導いているように思えます。 10 年前に作られた「黒い花電車」には、過熱し定着しつつある負の世界への黒い予兆があります。